クリスマスの日に

それは 街角の街頭募金でした。
子供たちが、寒空の下で声を張り上げて募金を募っていたのです。
私は、そこに立ち止まり考え込んでしまいました。
暖かい部屋でクリスマス・ケーキのろうそくを家族に囲まれて
照れながら消している子供の姿を思い浮かべながら 寒空の下で震える
子供たちの姿を目の前にして、僕はその子供たちを先導している
大人に詰め寄りました。
「なぜ、子供たちにこんな事をさせるんだ!」と・・・・
その先導している人は 驚いた様子で 少し困った顔をしながら
つぶやくように言いました。
「私も、こんな事 させたくありません・・・でも これが現実なんです。
一度、よかったら こちらにいらして下さい。」
そういって、一枚の名刺を渡されました。
そこには ある団体の施設が書かれていました。
交通遺児を中心とした子供達がいる施設の名刺でした。
私は、日程を決め その施設を訪問する事になりました。
そして、私は そこで驚愕の事実と直面するのです。

ある少女の手紙

私が、ある施設を訪問したその日の事・・・
子供達は歓迎してくれました。
その子供たちを見ていて感じたのですが・・・
こんなにも、親から離れて生活している子供達がいるのか・・・
様々な事情があるにせよ 少し驚きました。
子供達と いろんな話をしたその後 作文の朗読の時間がありました。
その時 ある少女が作文を読んでくれました。
少女は訴えるように読みました。
「私は、本当は勉強がしたい。高校にも大学にも行きたい。 でも、私には
お父さんもお母さんもいません。 5歳の時に交通事故で死んでしまいました。
もしも、お父さんやお母さんがいたならば、きっといけたと思います。
でも、諦めます。お父さんがいないから お母さんがいないから・・・。
本当は、生きていて欲しかったです・・・・。」
涙ながらに 作文を読む少女の姿に 僕は目頭が熱くなりました。
なぜ、こんな小さな子供にこんな思いをさせるのか・・・
なぜ、こんな事を言わせる環境になってしまうのか・・・
この日本は、裕福だと言われているのに・・・なぜ、こんなに子供達が
悲しい思いをしなければならないのか・・・
でも、自分に何ができるのか・・・
この子供達全員の親にはなれません。
でも、何かできないだろうか・・・
自分の心の中に 小さな使命感が芽生えたのでした。
どうにかして、今後は 悲しい子供達を作りたくない・・・。
そのために自分は何をしていけばいいのか・・・
この時 まだ私には何をしていいのかは わかりませんでした・・・。

スカウトマン

私が 施設を訪問して 約半月が経ちました。
当時、私はある会社の経営コンサルティングにも立ち会っていました。
その時に、施設での出来事をある女性コンサルティングに話したのです。
すると、その人は「あなたの心を理解してくれる事があるかもしれないよ」
と言って、ある人物を紹介してくれました。
私は、よくわからないままに その女性の紹介で その人物と会う事に
しました。
そして、あるカフェにて待ち合わせをする事になり
その人物はやってきました。
その人物の差し出した名刺には、「○△×生命保険株式会社 マネージャー」
と印刷されてあったのです。
生命保険会社が何の用だ?
私は、疑心暗鬼でした。
あの女性は 何を考えているんだ?
いろんな思いが交錯していました。
そのマネージャーの発言が詐欺師の様に感じたのです。
生命保険なんて、押し売りするだけの 女の仕事じゃないか・・・
どうして、このマネージャーは男なんだ?
疑問だらけな感覚の中、そのマネージャーは切り出しました。
「あなたを 是非スカウトしたいのです。」
私は、切り返しました。
「ふざけるな! どうして 俺が生命保険屋にならなくちゃいかんのだ!
そんなもの、押し売りだけのおばさんの仕事じゃないか!」
私は、その場でテーブルを立ち 腹立たしさでその場を後にしました。

一本の電話

私が 生保会社のスカウトを蹴ってから しばらく経ったある日
携帯電話に、見知らぬ番号の着信があった。
誰なんだろう・・・? 
私は、おそるおそる電話に出てみた。
すると、「○△×生命の ○○です。」と 言うではないか・・・。
断ったはずなのに・・・・
「あの、前の件ならお断りしたはずですが・・・」
という私に、「はい 別に入社してほしいとは 今は思いませんが・・・
私どもの会社の事や 本当の保険とはどういうものなのかを
わかっていただけるだけでも、あなたの得になるかなと思いまして・・・」
と なにやら 勧誘方針を変えたのか ま話くらいは 聞いてもいいか
と、その電話の主の 二者択一的な日程のアポに返事をしたのだった。
そして、約束の当日 応接に通された私にマネージャーは語り始めた。
保険の使命感 日本の保険文化 本当の保険はこうだという事。
本当にコンサルティングしなければならない事。
そして、悲しい子供達がいるのは 我々生保業界の怠慢なんだと
感じている事など・・・
私は、マネージャーの数々の言葉に涙したのだった。
そうだ・・・私は 人の役にたった そのお金で あの少女達を救おう・・・。
そのために、私は この会社で正しい生保を販売して
みんなに喜んでもらおう。
それから、私は 機械設計業を休業し 生命保険業界に飛び込んだのでした。
こうして、保険マン人生は 始まったのでした。

活躍

私の 保険マン生活が始まったばかりの頃・・・
おばさん生保を思うに とても大変な印象でしたが、私は・・・
なぜか 訪問するところが 全て契約してくれました。
当然、他社生保からの乗り換えなども含みまして かなりの数になり
私は、社でも 上位に入る程の成績を収めました。
まさに、鳴り物入りの新人となったのです。
私は、少女の為になれる日が近いと確心しました。
実際、その熱意に同感してくれて 加入してくれたお客さんもいて
私は、自分の仕事が正しいのだと 確信するようになりました。
まさに、コンサルティング・セールスという言葉がピッタリあてはまる
存在になっていきました。
なんだか、自分の未来像が とても明るく感じられました。
行くところ契約がコンスタンスにもらえて まさに絵に描いた餅が
実像になったが如くの仕事でした。
このまま ずっと 続いてくれると僕も感じていました。
あの夏の出来事さえなければ・・・

変貌

保険マンとして 順風満帆の走り出しを見せていた私は
ある時、勤務する保険会社の保険内容が 夏を契機に変化すると
聞かされていました。
「もしかしたら、お客さんにとって もっとよい保険になるかもしれないな」
私は、そう考えながら 既に予約としていただいている契約を保留にして
新商品のリリースを待ち焦がれていました。
そして、新商品リリースの日・・・。
ハッキリ言って、どういう内容になるのかとか そういう情報はまったく
聞こえてきませんでした。
しかし、リリースされた商品を知った時・・・私は 体中の力が抜けていくのを
感じました。
「何を考えているんだ・・・」正直 そんな内容でした。
シンプルになった商品構成ですが、お客さんに返すはずのお金を
削り取って、掛け金をわずかに安くする・・・。
そして、顧客本位の保険商品はすべて使い物にならなくなってしまい、過去の商品も売り止め・・・。
そんなバカな・・・
それでは、会社の利益を優先させて、それで僕達は生活するけど
お客さんが損をする・・・そんなの この会社に入社する前に聞いた
会社本位の保険商品を押し売りするおばさん保険売りと同じじゃないか?
そう感じた時、既に 私をスカウトしたマネージャーは退職準備をしていました。
「保険は お客さんの利益」そう言って 私をこの世界に引き込んだ人は
会社の変貌とともに消えていきました。
私の、燃えつづける「使命感」と「正義感」の 行く先は方向性を
失ってしまったのです。
ここに、保険マンの私は 重大なジレンマと社に課せられたノルマに
苦しむ事になるのです。

決別

商品内容が変わり、それまでの好調さは どこへやら
私は、葛藤の中 お客様への提案にも迷いつづける日々でした。
「この保険・・・私が提案すればお客さんは きっと契約する。でも、
この保険に加入させて 本当に自分が目指していたものがあるのか・・・?」
そういう思いが先に立ち、私は提案する事にためらいを覚えていたのでした。
そうこうしているうちに、オフィスのマネージャーも退職してしまいました。
風の便りに、その保険会社の本社幹部も退職したと聞きます。
この商品内容の変化は、もしかしたら 私たちの様な販売員クラスだけではなく
あちこちで いろんな影響を与えていたのかもしれません。
葛藤と悩みの中 一ヶ月は過ぎていき・・・僕は 一ヶ月で契約件数ゼロという
それまでになかった一ヶ月を終えたのでした。
そして、その翌月の初めに それまでは にこやかに「がんばってますね」という
言葉をかけてくれていた、支局の幹部がオフィスにやってきて 私を呼びつけました。
「先月、ゼロでしたね。やる気あるんですか? 今月はどうするんですか?」
と、冷たく責めてきたのです。
私は、少し力なく「先月の分を取り返したいと思います。」と 答えました。
その時に、返された言葉が・・・「できなければ、どうしますか?」という
信じられない言葉でした。
それは、「お前の 客はもう途切れたんだろう・・もう お払い箱だから 契約が
とれないんなら、さっさと辞めろ。」という言葉にもとれました。
私は、「できなかったらなんて事考えながら仕事なんてできません。」と
なぜか、その時 闘争本能に火がついてしまいました。
でも、この時点から その社に残る理由などなくなっていたのかもしれません。
その後、完全に その社に残れるはずもない出来事が起こりました。
それは、セールスにおいての指導的立場にある人に 少し意地悪な質問を
してみました。
ある法人(社長が私と友人)の実例を出して、「この社の税金対策の保険を
持ってきて欲しいと依頼されている。」
・・・と 言って、その内容を説明した その後 「この社では、どんな提案を
すれば、契約に結びつきますか?」と聞いた時に・・・
「気合でクロージングしなきゃー 腹くくらなきゃこの保険はとれませんよ。」
という、信じられない言葉が返ってきたのです。
この社は、コンサルティングよりも押し売りを強要しようとしている・・・。
私は、この時にこの社との決別を決定したのでした。

しかし、迷いもありました。
お客さんの事・・・拳を握り締めて「保険業界」に身を投じた時の事・・・
迷いの中から自分が出した答えは・・・
どこの社にも属さずに、経験を生かして複数社の保険会社と代理店契約をする事。
多少の成績計上は言われるでしょうが保険会社社員のように取り続ける必要のない事。
攻める仕事ではなくて、守りの仕事が保険に対してできるのではないかと感じました。
保険を売らずに保険と冷静に関わる事ができれば 正真正銘のファイナンシャル・プランナー
になれるのではないかと言う思いが確信に変わった時 迷いはなくなりました。
そうして、保険のみならず様々な仕事に関わる今の私のスタートラインとなりました。




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